宇宙船

映画の話

彼らが本気で編むときは、


映画をたくさん観るようになったので、感想と、なぜ観たのかを、残そうと思います。


『彼らが本気で編むときは、』
(2017年)

小学生のトモちゃんの、時々ふらっと消えてしまうお母さんが、ふらっと消えてしまって、お母さんの弟のマキオおじさんの家で暮らすことになるお話。
マキオおじさんにはリンコさんっていうトランスジェンダーの恋人がいて、「体の工事」で取った自分の大事な部分を毛糸で108個編み、供養して、本当の女性になろうとしている途中……というところ。

公開時に予告を観て、リンコさん役の生田斗真がきれいだなぁと気になっていたのを、最近思い出しました。
LGBTのカップルが、ネグレクトされてる子供を保護する、という感じで、『チョコレートドーナツ』みたいだと興味が湧いたのがはじまりです。

優しすぎる雰囲気のリンコさんと、ホワホワのマキオおじさん、そして編み物、美味しそうなごはん、で、ほのぼの映画だと思ったんですけど、なめてました。
まず何を編んでるかって、大事なアソコなわけで、リンコさんはいろんな気持ちを全部込めて編んで、供養すると言うんです。
トモちゃんのネグレクトされる様子や、編み物をめぐる会話、差別的な発言、傷つく心の剥き出しの様子、などなど、直接的で、人間くさくて、こっちの心にグサグサ入り込んでくる描き方で、心地よく傷つきました。

荻上直子監督だって知ったのは観終わってからです。
(荻上さんの映画は全部観ているけど、気づきませんでした……。)
でもこの、ほのぼの、の中に流れるめちゃくちゃな毒、たしかに荻上さんだ…と今は思います。
荻上さんの描く大人は、子供に嘘つかないなって印象。嘘つかないっていうか、子供に合わせて描かれていないというか、つまり、リンコさんみたいな、優しくて母性の塊みたいな人も、しっかり、昼間からビールを飲んで「ビール考えた人にノーベル賞あげたい」と言うんです。
わたしはこういう表現が好きです。

良い人、悪い人、大人子供、とかではなく、「全員漏れなく人間だ!!人間だぜ!!」みたいな。

トモちゃんの友達にカイくんという、リンコさんの子供時代みたいな子がいて、そのカイくんとお母さんのたたかいも、心グサグサ事件でした。
辛くて悲しいのに、音楽がものすごくきれいで穏やかなんですよね。感傷浸ってんなよ泣くなよ、よく見とけよ、とぶつけられてる気がしました。(そんな意図はないかも。)
でもそれで“心地よく”傷ついたのかもしれません。

何も、別に、上手くいったりはしない映画でした。

希望していた方にいかない、願いはそんな簡単に叶わない、分かり合えない、自分で自分をどうにもできない、スムーズ、とかトントン拍子という言葉はどこにもありませんでした。
だけど編み物みたいに、ひとつひとつ編み重ねて、編み間違えてもほどいてやり直す。いろんなことが絡み合って、どんな形に出来上がるかもわからないけど、とにかく編むことしかできなくて。

リンコさんたちが編んだたくさんのアソコはいろんな大きさと形をしていて、それをみんなで笑いあっていたんですけど、全部がそんなふうになればいいと思いました。

なぜ、編み物なのか?というところは、とても大きな愛のお話なので、知らない人はぜひ、自分で確かめてほしいと思います。