宇宙船

映画の話

ピアニスト


『ピアニスト』(2001年)


ウィーン。無表情でストイックなピアノ教師・エリカは、(おそらく)恋愛経験の少ない中年女で、過保護な母親と2人暮らしをしていました。
ある日知り合い同士のピアノ演奏会で、ワルターという他校の青年に出会います。彼の専門は音楽ではありませんでしたが、エリカはその才能に少し惹かれます。そしてワルターもエリカに恋をして、エリカのクラスの編入試験を受けるのでした。


パッケージの写真を気に入って、内容も知らずに観ました。
ロマンチックラブストーリーと思っていたら全然違いました。それでも途中まではロマンチックラブストーリーだと思って観ていたんですが、やっぱり違っていて、心が折れました。

エリカは名門校の教師というプライドと、それから育った環境のこともあって、ほとんど感情を出さず、とくに人に好意を伝えることが苦手です。
ワルターのことを気になっているんですが、素直になれず、むしろ彼の音楽論を否定したり、頑なに認めない態度が目立ちました。

たぶん、性格もあるけど、年の差とか立場とか、男に不慣れなこととか、いろんなことを考えて、好きな気持ちを押し殺そうとしてたと思うんです。
そのまま静かに気持ちがなくなるのを待ちたいのに、ワルターが掻き乱してくるんですよね。あんなキラキラした笑顔で近づいてこられたら混乱するしかないです。

エリカの生活や、欲求不満の様子が、ものすごくリアルでした。
わたしにはエリカがものすごく禁欲的な女性に見えていたので、無表情で、慣れた様子でアダルトショップに入って行ったとき、ああ!って。
うわ、なんか始まるわ!って、思いました。
同時に、それがすごく現実的に思えて、こういう女の人はいる、実際、これはリアルだ、女の人って、女の人も、こうだ、と思いました。

内に内に気持ちを押し込めるから、余計に内側に爆発して、こういうことになるんだろうな、と。

エリカがドライブインシアターでカーセックスしているカップルを見つけて、その様子をじーっと見つめて、無表情で涙を流して失禁する場合があって、わたし、「こわいこわいこわい!」と思わず声に出していました。
こわかったです。

ここから後のことがもうぼんやりしています。

エリカの気持ちはどんどん過激な方向へ進んでいきましたが、ワルターの気持ちはギリギリまで純粋にエリカを愛していました。
でもエリカの過激な性的嗜好、意図のわからない焦らす行為に、ワルターの気持ちも変化していくんです。

わたしにもこの時のエリカの気持ちは全くわかりませんでした。

家庭環境のこととか、いろいろ、考えることはたくさんあるのでしょうけど、原因とか、描かれているものとか、たくさん、あるのでしょうけど、ただひたすらに気持ちが悪かったです。

エリカのその壊れようも、怒ってエリカを強姦したワルターのことも、怖くて泣きました。
なんか、全部のことが嫌いでした。
こうやって書きながら思い出すのも疲れるくらい、心が折れました。

ただ、犯されるエリカの穴みたいな目を見ながら、あ、イザベル・ユペール凄いぞ、という気持ちもありました。
エリカは本当にずっとずっと無表情で、この時も無表情でした。
だからラストシーンでものすごく表情を歪めた瞬間、拍手喝采の気持ちがしました。自分の胸を自分で刺して、またいつもの調子で無表情で去っていくんです。

もう無理…と思いながら観ていましたが、それだけは素晴らしさの方が突き抜けていました。この映画を誰にも観て欲しくない気持ちと、絶対にこの顔を観て欲しい気持ちになりました。
そして、最後の表情へわたしを連れていったそれまでの景色、ピアノの音、何も語らないエリカのことを思い返しました。

だから複雑です。
もう二度とこの映画のことを考えたくないけど、紛れもなく素晴らしかった。